最近、サブスクという言葉をよく聞きませんか?
サブスクとはサブスクリプションの略で、日本語に訳すと『月額課金』になります。
例えばAmazonのアマゾンプライムや、Netflixのように、毎月固定の金額を払えばコンテンツが使い放題になるというサービスのことです。スマホの契約も同じですね。
しかし、もしもあなたがサブクリプションという言葉の意味を『月額課金サービスのこと』と解釈しているのだとしたら、理解が十分ではないかもしれません。
なぜなら、サブスクという言葉は、すでに『月額課金サービス』という意味の枠を超えて、これから先の主流となるビジネスモデルそのものを言い表しているからです。
今回、紹介する本のタイトルは
『サブスクリプション』です。
月額課金サービスという意味合いを超えた、ビジネスモデルとしてのサブスクリプションという言葉の意味を理解できる一冊になっています。
『所有』よりも『経験』
本書を読むことの目的はこの図の意味を理解することです。
※本書より引用
この図が表しているのは、従来のビジネスモデルと、新しいビジネスモデルです。
従来のビジネスモデルは、顧客に商品を『所有』させることを最大の目的としています。
対して、サブスクリプションビジネスモデルは、顧客が求める『経験』を実現させることを最大の目的としています。
サブスクリプションモデルにおいては『誰に売っているのかを知っている』かどうか成功の鍵となります。
顧客を『年代』や『性別』のブロックごとに分けるのではなく、ひとりひとりを個として扱います。
それを可能にするのがEコマースであり、顧客ひとりひとりのIDです。
顧客は製品を利益に変換するプロセスの末端ではなく最高のビジネスパートナーとして捉えます。
顧客を製品の所有者として捉えるのではなく、使用者として捉えます。
顧客の目的は製品を所有することではなく、製品を通して経験を得ようとすることだということを常に忘れないように心がけます。
従来のビジネスモデル
従来のビジネスモデルは、顧客の『所有したい』という欲求を満たすようにデザインされています。
サービスの流れは滝のように上から下へ流れていく形になっています。
まずは顧客が何を求めているか企業が『想像』します。
そして多くのコスト(予算や人や技術)を投入して新製品を開発します。
開発した新製品をチャネルに流通させます。
顧客はチャネルから商品を購入することができます。
最たる例として本書ではフォードの大量生産システムが紹介されています。
フォードは生産プロセスを単純な反復作業に分解することで効率を最大化し、3分に1台のペースで車を生産できるようになりました。
ただし黒色に限り。
理由は黒色の塗装が唯一ペースに間に合う早さで乾いたためです。
市場シェアを確保したフォードは、しだいに価格を釣り上げて儲けを得ることに注力しました。
企業は開発部門の維持と製品の売り上げを確保するために、顧客の要求からではなく自分たちの都合だけで製品の『計画的陳腐化』を繰り返しました。
『計画的陳腐化』とは顧客が求めていないのに、新商品を売り出したいという企業の都合だけで予算をかけて新商品を開発および発売することです。
製品は顧客の要求を反映していないため、使いにくかったり、求められていない機能が無駄に備わったりしていました。
サブスクリプションビジネスモデル
サブスクリプションの本質は『月額課金ビジネス』ではありません。
じゃあ『月額課金ビジネスと使った分だけ支払う従量課金ビジネスのコンビネーション』と言ってはでしょうか。
残念ながらそれも全然ちがいます。
サブスクリプションとは、常に変化する顧客のニーズに対応するためにアップグレードやサービスの追加で顧客単価を高め、顧客の利用状況などにによっては解約率を下げるためにダウングレードを提案するビジネスモデルのことです。
本書では『永遠のベータ版』という言葉も紹介されていました。
顧客の都合を最優先し、いつでも休止、再開できるような様々な選択肢を提供しつつ、一日でも長く利用し続けてもらうための施作を打つことにより収益化します。
このような『顧客と企業の常時フィードバックを基準とした継続的成長ビジネスモデル』のことをサブスクリプションモデルと言います。
従来のビジネスモデルからサブスクリプションモデルへの移行は『ビジネスモデルの変革』に他なりません。
本書ではサブスクリプションモデルの一例として、日本の企業としても有名な、世界で最も古い建設・鉱山機械メーカーであるコマツが紹介されています。
コマツのサービスを利用することで、材料、機材、人工数、最後の1時間まで詳細に記載された作業スケジュールを含む完成版プロジェクト計画を30分の現地調査で完了させることができるのだそうです。
何か建設するためにはまず最初に地盤の基礎を固めるためにどれだけ地面を掘る必要があるかを調べることが必要になります。
コマツは、大勢の測量士を派遣するのではなく、たくさんのドローンを使ってセンチメートル単位の3Dレンダリングを実施します。
しかし、ドローンによる精度の高い測量技術や、膨大な過去データを活用したスケジュール作成は、サブスクビジネスを運用していく上での【結果】の部分でしかありません。
顧客がコマツに対して求めていることは、工事のために機材をレンタルしてくれることではありません。
工事を滞りなく完了させることができるサポートを求めているのです。
つまり、顧客は重機をレンタルするという形で『所有』することが目的ではなく、スムーズに工事を進める『経験』を求めているのです。
機材そのものはサービスの本質ではなく、工事の完了にむけて、全てをサポートすることを提供することに目を向けたところがポイントです。
この事例を読んだときに
「え?これがサブスク?思ってたのと全然違う」
と思いました。
そう、『月額課金サービス』という言葉ではサブスクという言葉の本質を全く説明しきれていないのです。
『どの重機が何台ご入用ですか?』(顧客に所有させる)
『どのくらい土砂を移動する必要がありますか?』(顧客の経験を満たす)
サブスクリプションモデルへの移行(魚を飲み込む)
本書では、従来のビジネスモデルからサブスクリプションモデルへの移行プロセスが細かく説明されています。
成功例ももちろんのことながら、失敗した事例も紹介していて、それぞれ、なぜ成功したのか、またはなぜ失敗したのかの分析もあるため、読み応えのある内容となっています。
しかしながら、この場で一つ一つの事例を私なりの言葉で要約するよりも、実際に本書を手に取って読んでいただいたほうが情報量も多く正しい理解が得られると思います。
サブスクリプションモデルとは何なのかを理解するだけでなく、自分のビジネスにどう活かすことができるのかを知りたい方は、是非とも実際に本書を読んでいただくことをお勧めします。
一点だけ、従来のビジネスモデルからサブスクリプションモデルへの移行にあたり、どんなビジネスにもあてはまる法則があるので、それだけは紹介させていただきます。
それは、サブスクリプション方式に移行することで収益が一時的に減少するということです。
収益の減少が早いほどサブスクの登録者が急速に増えているということを意味します。
収入は消えるのではなく単に時間軸の先へと押しやられるにすぎません。
本書では移行期間のことを『魚を飲み込むための期間』と述べています。
※本書より引用
移行期間中、収益曲線は下降を続け、のちに再び上向くまで、営業費用曲線を下回る期間が続きます。
このグラフが魚のように見えるので『魚を飲み込むための期間』と呼ばれているのだそうです。
魚の形を形成できて初めてサブスクモデルが成功したと言えます。
そのために、顧客、投資家、従業員、といったサービスに関わる全てのセグメントに対して、なぜサブスクリプションモデルに移行する必要があるのかを説明し、納得してもらう必要があります。
従来のビジネスモデルからサブスクリプションモデルに移行する際に必ず発生する『健全な収益減』を全てのセグメントに理解してもらうことが、サブスクリプションモデルへの移行の第一歩となります。
消費者(個人)として学んだこと
ここからは本書の解説ではなく、本書を読んだことで個人として学んだことをお伝えできればと思います。
本書を読んだことで、モノの売り方が所有意欲の刺激をベースとした売り切り戦略から、経験意欲の補完を補う定期購買戦略へと大きく転換してきていることが理解できました。
繰り返しになりますが、従来のビジネスモデル(顧客に所有させる)からサブスクリプションモデル(顧客の経験欲を満たす)への移行ですね。
私は『個人としては、月額の固定費をしっかりと把握して、定期的にサブスクサービスが必要か見直す必要がある。』と感じました。
あるサブスクを利用していたとして、利用を開始した当時は必要としていたサービスでも今は必要ないかもしれません。
しかし、サブスクモデルのサービスは自ら解約しない限り月額の固定支出がかりつづけます。
オンラインサロン、ストリーミングサービス、登録者優遇対応など、個別に見れば百円単位から千円単位のものが多く、負担が少ないようにも見えます。
しかし、塵も積もれば山となるとのことわざ通り、月額の支出はそれらの合計になります。
企業が何を提供してくれるか以前に、自分にはどんなサービスが『必要』なのかを、立ち止まって真剣に考えることが重要なのではないかと思います。
サブスクリプションモデルを成立させるために必要なのは、顧客ひとりひとりのデータです。
『年代』や『性別』といったブロックではなく、顧客ひとりひとりの異なるデータから、それぞれに最適化されたサービスの提供を確立させることがサブスクリプションモデルのカギとなります。
ここで重要なのは、企業はとにかく最初は顧客情報を得ることを最優先するということです。
顧客情報とはなにも、名前や年齢や住所のことではありません。
たとえばNetflixやアマゾンプライムだったら好みの動画の傾向といった情報も顧客一人一人の情報です。
Netflixやアマゾンプライムのホーム画面を開くと、オススメ動画がいくつも表示されます。
オススメ動画は完全にランダム表示されているのではなく、過去の視聴履歴から、アルゴリズムによってこの人だったらこの動画を再生する確率が高いであろうという動画が表示されます。
これが、顧客一人一人のデータをつかって『経験を満たす』ことを目的としたサービスです。
そして、これらのサービスは驚くほど安い月額で展開されています。
何が言いたいのかというと、一度そのサービスのすばらしさを『体験』してしまうと、なかなか止めることができなくなるということです。
要は最終的に、企業からの値上げに対して無条件で従わざるを得なくなります。
ネットフリックスは2021年2月、日本で標準プランの料金を月1320円から1490円に値上げしています。 複数の端末で同時再生できない基本プランも月110円上げて990円にしています。
※ランチェスター戦略の『グー』2.顧客情報を収集
※ランチェスター戦略の『グー』3.もっと素晴らしいサービスを展開
※ランチェスター戦略の『パー』4.月額利用料を値上げ※ランチェスター戦略の『チョキ』5.やめるにやめられない
このスパイラルにハマってしまわないように、サブスクサービスを利用する際は、そのサービスが自分にとって本当に必要かどうかを考えたいものです。
このように、本書を読むことで、モノの売り方が大きく変化してきているというビジネスのトレンド変化を学びつつ、企業の戦略を理解したうえで、消費者としてはどのように対応すればよいのかということを考えることができるようになります。
今回の記事で解説できている部分は本書の中でもほんの一握りです。
興味のある方はぜひ手に取って実際に読んでみてはいかがでしょうか。
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